約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 友理香が謝罪しやすい環境を作り上げている途中で、雪哉がそれを壊すような台詞を吐いた。折角友理香の意識をこちらに向けることに成功したのに、と苦虫を噛んだような気分になったが、愛梨は無理にでも笑顔を作る。

「大丈夫だよ。だって今ならまだ、ここにいる3人しか知らない」

 これが社長や専務のような、全く英語を話せない重役たちが相手だったら大問題だろう。けれど愛梨はただの平社員だ。取引先の外国の男性は少し困ったような顔をしていたが、それで大きなトラブルに発展した訳でもない。

「お願いします。友理香ちゃんがいないと困るの。それは河上さんも同じでしょう」

 新規事業の成功のためには、雪哉の力も、友理香の力も必要だ。もちろん派遣社員に何らかのトラブルがあれば、派遣元会社は新たな通訳を送り込んでくるだろう。

 けれど友理香はもうこの会社に馴染んでくれている。雪哉が友理香の『出来心』を黙ってくれる事で、全てが円滑に済むのならそれが1番に決まっている。

「はぁ」

 じっと見つめると、雪哉は観念したように溜息を吐いた。

「とりあえず、一旦保留にさせてもらう。友理香は仕事に戻って。俺も次の予定があるから、もう行かないと」

 雪哉は呆れたように話を打ち切ると、踵を返して静かに通訳室を出て行った。向かった先はわからないが、きっと昼食を取り損ねたはず。それはちょっと可哀そうだな、と思ったが、視線を動かすと隣にいた友理香が今にも倒れそうなほど青ざめて震えていて、空腹よりもこっちの方が余程可哀そうだと思えた。

「河上さん、怒ると怖いね?」

 茶化すように笑うと、顔を上げた友理香と目が合った。美人は泣いても美人のままで、瞳いっぱいに涙を溜めて震えているのを見ると、雪哉をもう1回叱ってやりたくなる。
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