約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
『この人なんか芸能人みたいに格好いいなぁ』という能天気な感想と、それが幼馴染みの河上雪哉であることに気付くのは、ほぼ同時だった。唐突に愛梨の意識の中に出現した人物は、先入観や想像の範疇を大幅に飛び超えてきた。
思わず心臓がドクンと拍動する。
驚きのあまり『格好いい』という感想など、瞬く間にどこかへ飛び散っていった。
(…う、嘘…!?)
あまりの出来事に言葉を失ったまま硬直していると、エレベーターが1階に到着した。扉が開くと、専務は『開』ボタンを押したまま待ってくれている弘翔には目もくれず、相変わらずの高慢な態度でエレベーターを降りて行く。
「河上君? どうした?」
だがついてくる筈の人がついてきていないことに気付いた専務は、立ち止まるとその場で後ろに振り返った。専務に不思議そうに声を掛けられ、見つめ合ったまま凝固していた愛梨と男性――雪哉はふっと時間を取り戻した。
「あぁ、申し訳ありません」
雪哉ははっとしたように顔上げると、1度だけ愛梨の方を見つめて、すぐにエレベーターから降りていく。
(河上、君…)
雪哉の動きから遅れること数秒、愛梨もようやく動きを取り戻す。専務が口にした男性の名字が、愛梨の衝撃的な『気付き』を『決定打』へと塗り替える。驚愕で震え出す足をどうにか動かして、弘翔が開けてくれていたエレベーターの扉を出た。
「愛梨?」
エレベーターを出ると、弘翔に話しかけられる。きょとんとした顔で首を傾げる仕草から、弘翔に何かを話しかけられていたと気付く。
「うん…?」
「ドラッグストア寄ってく?」
驚きですっかり思考が鈍った頭で、先程までの会話の内容を思い出そうとする。けれどそれよりももっと気になる大事件が起こってしまったせいで、考えても何の話をしていたのかが全く思い出せない。