約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
(弘翔もそう思うよねー?)
愛梨の位置からだと完全に背中しか見えない弘翔に、無言のままそう訴える。もちろん愛梨の心の声には返事などない。
誰も反応などしないはずなのに。突然、隣から名前を呼ばれた。
「愛梨…?」
2秒。何もないまま時間が過ぎる。
「……?」
弘翔の視線は扉側を向いていて、愛梨には背を向けている。専務が一社員の名前を認識している筈などない。ならば他に、誰が愛梨の名前など呼ぶのだろうと不思議に思う。
ゆっくりと顔を上げる。
声を発したのは専務の隣に立つ、完全に意識の外にいた人物のようだった。専務の秘書か他の部下だと先入観で思っていた。いや、そんなどうでも良い事なんて、考えてすらいなかった。
だからその人物の顔を見た瞬間、愛梨は世界中の音が一瞬で消え去るのを感じた。
「!!!」
こちらを見ていた人物と、思い切り目線が合う。
さらさらストレートの黒髪。奥二重で形が整った目元。綺麗に通った鼻筋に、薄い唇。まっすぐに、けれど少し驚いたように愛梨を見つめる表情。
愛梨の知っている造形とは少し変化――成長しているが、面影どころか縮尺が違うだけで本人そのままの。
懐かしい、想い人。
(……ユキ…!?)