約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「でも私、今回はズルしちゃったから……。雪哉は格好良くて目立つから色んな噂の的になるけど、今まではどんな噂になっても、誰に迫られても絶対振り向かなかったの。だから私、愛梨が雪哉の想い人だって気付いて悔しかったんだ」

 友理香の言葉に納得感を得る。最初に通訳室で雪哉と距離が近かったのを目にした時、友理香は雪哉には詰め寄ったが、愛梨にはあまり反応を示さなかった。友理香の中では、周囲の女性が雪哉に好意を寄せるのはそのぐらい普通の出来事なのだろう。

 けれど雪哉がそれに応じている所は初めて目にした。だから驚いて、慌てて雪哉を問い詰めた。そして後から雪哉の想い人が愛梨だと気付き、雪哉にとっては重大で迷惑な、愛梨にとっては困ってしまうけれど可愛らしい嫉妬をしてしまった。

「振り向いて欲しい相手の想い人を陥れようとするなんて、フェアじゃないよね」
「そうかな? 私は、それも本気の証だと思うけど……。あぁっ、でももう放置はしないでね…!? 私、ほんと日本語も怪しいんだから!」

 愛梨は友理香の本気度を知った。
 その本気度を示す方法を間違えてしまっただけで、雪哉に対する友理香の想いの強さは、紛れもない本物だった。慌てて手を振ると友理香が可笑しそうに笑い出す。

「ふふふっ、愛梨は優しくて良い人だねぇ」
「えぇ? 私は友理香ちゃんの方がいい子だと思うけど。美人で、真っ直ぐで、純粋で…」
「えへへ、ありがと。あ、でも雪哉の事は諦めないからね!?」

 そう言った友理香の瞳の中の恋する流れ星は、きらきらと無垢で美しい。自由意思に身を任せて降り注ぐ流星群のような輝きは、大人になって素直さを失った愛梨ではそもそも勝てる筈がないと思う。

 それに愛梨は、勝ちたいとも思っていない。雪哉と今以上の関係になりたいなんて。

 思って、いないから。

「うん、友理香ちゃんのこと応援してる」

 けれどその言葉を聞いた友理香は、何かを悟ったように曖昧な笑顔を零すだけだった。
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