約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 笑いを引っ込めると、うーんと身体を伸ばす。そして残っていたオレンジジュースをストローから吸い込むと『燃えるゴミ』の箱に紙パックを捻じ込んだ。

「じゃあね、ユキ」
「あぁ、うん」

 雪哉に言葉をかけて、弘翔の傍に寄る。雪哉は少し残念そうな顔をしたが、仕事なのでそんな顔をされてもどうしようもない。

 弘翔は空いた時間を利用して経理部に行くと言っていたが、そちらの要件も終わったようだ。休憩なしで歩き回って疲れてるだろうなぁと思い、その顔を見上げて、ぎょっとする。

「ちょっ、弘翔? ……睨んだらダメだよ?」

 既に離れているというのに、弘翔は今まで愛梨がいた場所――雪哉の後ろ姿をじっと睨んでいた。体格がよく、どちらかというと彫りが深くて男性的な顔立ちの弘翔が、怒ったように他人を睨む様子はなかなか凄味がある。

「いや、睨みたくもなるだろ」

 声を掛けると一応視線は逸らしてくれたが、表情はまだ硬いままだ。

「『ユキ』って呼んでるんだ?」

 その弘翔が、愛梨と目線を合わせないまま呟く。はっとして指先で口元を覆ったが、遅すぎて何の意味もなかった。

「ご、ごめん……。昔のクセでつい……」

 一応言い訳を添えてみるが、それもきっと意味がない。その証拠に、並んで歩き出した弘翔はもう何も言ってくれなかった。

 自分のうっかりすぎるミスに、自分で悲しくなる。

(しっかり、しなきゃ…)

 弘翔を傷付けたくないと思っていたのは、他でもない自分なのに。
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