約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 それらは全て弘翔との関係を壊したくない一心で吐き出した言葉だが、雪哉には不思議な程に動じた様子がない。

「ちゃんとわかってる。まぁ、聞くつもりはないけど」
「……」

 いやいや、そんな満面の笑顔で言われても。聞いてよ。

 でもそう言ってもどうせ受け流されてしまうんだろうな、と気付いてしまう。雪哉は少し、愛梨に対する意地悪が好きなようだから。

「ユキって、ちょっと腹黒いよね」

 雪哉を表現するいい表現を見つけた気がして、ぼそりと呟く。雪哉は言っている事とやっている事が違っていて、いつも愛梨を混乱させる。愛梨のそんな様子を楽しんでいるようにも見える。それを一言で表現するとしたら『腹黒い』は良い表現だ。

 思いついた単語を何気なく言ったつもりだった。けれど愛梨の呟きを聞いて、雪哉が突然静かになってしまう。

 あれ? 怒った? と隣の顔を見上げると、微妙な表情のままその場で固まっていた。『しまった』みたいな顔をしているのが、少し面白い。

 一瞬、沈黙する。
 けれど珍しい表情を見ていると、すぐに笑いが込み上げてきた。

「ふふっ……そこは否定しないんだ?」
「いや、腹黒くはない」

 笑いながら言うと、雪哉が急いで訂正してきた。けれど彼には腹黒いという言葉がぴったりと合うような気がして、その可笑しさから笑いが止まらなくなってしまう。

「笑いすぎだよ」
「いや、だって…あははっ」
「愛梨? 何してんの?」

 雪哉の動揺ぶりを笑っていると、後ろから話しかけられた。耳に馴染んだ声がして振り返ると、シャツの袖を捲り上げて、ネクタイを胸ポケットに突っ込んだ弘翔がじっとこちらを見ていた。

「あ、弘翔。アップデート終わった?」
「終わった終わった。今システムチェックしてるから、あと5分で使用可能になるって」
「ん。わかった~」

 弘翔に言われて、仕事の時間が戻って来たことを知る。束の間の休憩時間は終わりだ。
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