約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 けれど、これが弘翔を不安にさせてしまったことによる裏返しなんだと気付くと、愛梨には拒否することは出来ない。黙って受け入れるしかない。

 そう思っていたのに、弘翔はやっぱり優しかった。

「愛梨が戻って来てもいいように、俺は待ってるから」

 弘翔は、愛梨を待つと言ってくれる。雪哉との関係をはっきりさせるまでの間、自由にすると言ってくれる。そんな優しい言葉に、つい頷きそうになってしまうけれど。

「ううん。ダメだよ、弘翔……待つのは、辛いんだから」

 けれど待つのは辛い。だから待つ約束なんてしない方がいい。約束は破ってはいけないし、約束を破ると罰を受ける。できない約束なんてしないほうが良いと、よく知っているから。

 だからその言葉に縋りたい気持ちをぐっと堪えて、首を横に振った。

「愛梨が言うと重みあるな」
「……うん」
「でも俺は15年も待たないから。その頃には、愛梨の名字はとっくに『河上』か『泉』になってるよ」
「え……どういう意味?」

 瞠目すると、弘翔にまた笑われてしまった。愛梨が大好きな、優しい笑顔で。

「1回は自由にしてあげるけど、次に掴まえたらもう逃さないって事」

 そう言った弘翔の目の色は、少しだけ雪哉の目と似ていた。形は全然違うけれど、その奥の中で揺れている感情が何となく似ている。子猫というより黒ヒョウのような。いや、弘翔にはライオンの方が似合う気がする。

 その鋭い視線を発見して驚いていた愛梨の身体を、弘翔は1度だけ抱きしめてくれた。もうキスはしなかったけれど、それだけで不思議と不安な気持ちが消え去っていく。

 友理香のいうように、弘翔に心臓が苦しいほどのドキドキはしないのかもしれない。

 けれど安心できる事も、大事な感情のカタチだと思う。それは『恋』ではないのかもしれないけれど。

「ありがとう、弘翔」

 ちゃんと大事にしてくれているとわかっているから『1回は自由にしてあげる』と言った弘翔の言葉に、少しだけ甘えることにする。

 本当は手放したくない温もりが、自分の本音と話し合うことの大切さを教えてくれる。

 だから愛梨は、自分の気持ちとちゃんと向き合ってみようと思う。恋愛経験が不足している自分がどんな答えが導き出せるのかは、まだわからないけれど。
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