約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
いつの間に近付いてきたのか、テーブルの傍に立っていた女性に突然声を掛けられた。
(う……。何か来た……!)
愛梨だけではなく雪哉のことまで名字で呼んだ割に、親しさだけは100%以上を醸し出してきた人物の姿を確認すると、またしても見たことがない女性。今日は3人。
昨日の経理部の女性2人に襲来された時と同じ状況を、巧妙に再現されている感覚を覚える。彼女たちもまた、雪哉とお近づきになりたくて声を掛けてきたことは容易に想像できた。
美男子の通訳である河上雪哉と親し気に話す女性社員、上田愛梨の素性を事前にちゃんと調べてきているところまで昨日と同じ。
「どうぞ」
愛梨の嘆きを察しているのかいないのか、雪哉は人の良い笑顔で空いている隣のテーブルを示した。雪哉と愛梨の目の前には席が2つしかないので3人には隣のテーブルをすすめたのに、2人が目の前に腰かけ、1人だけ隣のテーブルに座る。
(わぁー、ぐいぐいくるな~)
圧が怖い、なんて他人事のように思うも束の間。
「河上さん、上田さんと仲良いんですか?」
あまりにもド直球に攻め込んできた女性の言葉に驚いて、食べていた天ぷらの衣が喉に引っかかった。ごほ、とむせ込む愛梨を余所に、雪哉が笑顔のままですかさず返答する。
「ええ、そうなんです。個人的には、もっと仲良くなりたいと思ってるんですけど」
(ちょっと! 余計な事言わないで!)
むせてしまった所為で言葉が出ない。代わりに心の中で雪哉の軽はずみな言動を責めるが、愛梨の願いは届かず女性陣との会話も止められない。
「ええ~? でも上田さんには泉さんっていう恋人がいるんですよぉ?」
「そうですよ、恋人に悪いじゃないですかー?」
「恋人がいる人と仲良くなってはいけない、と言う事はないと思うのですが」
(こーらー!! それ言ったら変な噂になっちゃうでしょー!!)
更ににこやかに言い放った雪哉を、心の中で叱ってみる。