約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 むせ込みは落ち着いてきたのでもう喋れるとは思うが、まくしたてる女性たちとそれを軽やかにかわしていく雪哉のやりとりを拾っているだけで、会話を遮ることは出来ない。心の中の威勢とは裏腹に、実際にはおろおろしているだけの愛梨だったが、視線を動かした雪哉とほんの一瞬だけ目が合った。その視線の意味を考える暇は、なかった。

「それに、愛梨と泉さんはもうお別れしてるので、別に関係ないでしょう」
「……えっ…。そうなんですか?」

 雪哉のこの発言には、押しが強かった3人も流石に動揺したようだ。

 眉目秀麗で博学多才の雪哉は女性社員たちの注目の的になってしまうが、弘翔はあまり女性達に意識されていないらしい。愛梨と雪哉の様子には目敏く反応する割に、愛梨と弘翔の関係が変わったという情報は誰も得られていなかったようだ。

 ここでもやはり、雪哉が女性の支持を得る。イケメンって恐ろしい。

(…………………ん?)

 雪哉の好感度に感動している場合ではない。ものすごくさらりと言われたのでそのまま流してしまいそうになったけれど。

(あれ…? 私、ユキに話し……??)

 弘翔と別れた事。
 話して、いないはず。

 話すと雪哉に急激に距離を詰められて困ってしまいそうだったから、言わないでおこうと思って、言っていなかったのに。

 どうして、知っているの。

「そうだよね、愛梨?」

 にこりと笑顔で確認されても、驚きのあまり頷くことすら出来ない。雪哉がまたわざとらしく首を傾けてくる。

(ていうか、この場で下の名前で呼ばないでよ……)

 通訳のくせに雪哉は空気が読めてない。

 ふと顔を上げると、雪哉の発言に言葉を失っていた女性の1人と目が合った。愛梨と同じぐらいに動揺した様子の女性は、眉をピクピクと動かして何かを言いたそうにしているが、結局何も言えずにいる。彼女にも、その隣で唇を震わせている彼女にも、隣のテーブルで瞬きしている彼女にも、愛梨がかけられる言葉などない。
< 189 / 222 >

この作品をシェア

pagetop