約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 雪哉の思わぬ告白に、自分の目が見開かれる表情筋の動きを知覚する。

 弘翔は雪哉の恋慕の情だけではなく、それを向けられる愛梨の当惑も察していたらしい。弘翔だって傷付いていたはずなのに、愛梨の心情を優先して雪哉に釘を刺しておいてくれたなんて……弘翔の察知能力の高さに驚いてしまう。それと同時に、別れても普通に接してくれる豪胆な性格に感謝する。

「随分優しい『元』彼氏さんだなって感心した。けど、俺はそんなに優しくないな」

 だが雪哉には効果がなかったらしい。むしろ焦燥感に火をつけてしまったようで、隣に座っていた雪哉に手首を掴まれると、思わずびくっと身体が跳ねた。

「相性が悪くて別れたわけじゃないって知ったら、焦りもする。1度手放すのは、愛梨に自分から選択させるためだ。次に選ばれたら、あの人はもう2度と愛梨を手放さない」

 説き伏せるような雪哉の説明を聞いて、不意に弘翔が口にした言葉を思い出した。

 1回は自由にしてあげるけど、次に掴まえたらもう逃さない。弘翔の視線や挙動に恐怖を感じた事はないが、あの時の瞳は雪哉の目に似ていて少しだけ驚いた。それは言葉の通り『もし元の関係に戻れたら、もう絶対に別れない』という意味なのだろう。

「この前キスした時の表情(かお)見て、ようやく愛梨が俺だけを見てくれるって思った。けど仲良さそうに話してるの見ると、やっぱり泉さんの方がいいって言われてるみたいで……いま相当焦ってる」

 雪哉が眉間に皺を寄せながら呟く。いつもの冗談やいじわるではない。素直な気持ちを吐露したような声と共に、手首を掴んでいた手と反対の手が愛梨の首筋にそっと添う。

「教えてくれなかったのは、俺に距離を詰められたら困るから?」
「……うん」
「愛梨は、俺の事嫌い?」
「……嫌いじゃない、けど」
「けど? 男としては見れない? ずっと幼馴染みのまま?」

 その指先で頬に触れられ、瞳を見つめられ、次々に返答を求められると心臓がまた苦しい程に騒ぎ出す。

 男として見れないわけじゃない。それどころか、雪哉は15年もの長い間、愛梨の恋心の全てだった。雪哉だけを思い続け、他のどんな男性も目に入らなかった。だから、雪哉を男として見れないわけではない。けれど。

「……ユキは私を、置いていくから」
< 195 / 222 >

この作品をシェア

pagetop