約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 けれどやっぱり簡単には頷けない。雪哉の告白に頷けば、また15年前のあの日に戻ってしまう気がする。『好きだ』と言われて『私も好き』と答えたら、『待ってて』と言われて『待ってる』と答えたあの日と同じく、雪哉が突然目の前から消えてしまう気がする。

 急にアメリカに帰らなきゃ行けなくなったんだ、と言って、愛梨にキスを1つ残してまた15年会えない気がしてしまう。

「ユキは傍にいてくれないから……。待ち続けるのは、もういやだから…」

 ぽつりぽつりと呟くのは15年の時間の長さ。そしてその歳月を乗り越えられなかった弱い心。愛梨は雪哉を待てなかった、寂しさに耐えられなかった。

 そしてきっと、次も耐えられない。だから雪哉の想いには応えられない、と素直じゃない台詞を舌の奥まで持ってくる。

「確かに寂しい思いをさせたと思う」

 けれど雪哉は、愛梨にその台詞を言わせなかった。約束に向かって続いていた時間のレールから脱線した愛梨の寂しさを認めた上で、未来の不安を掬い取る。

「でも、もうどこにも行かない。愛梨の傍にいる。……もしどこかに行くとしたら、今度は愛梨を連れていくから」

 もう同じ時間は繰り返さない。置いて行かないし、長い時間待たせない。そんな事をするぐらいなら、連れ去ってでも傍に置く。

 そう言って熱い視線が愛梨の拒否を奪う。その瞳に『もう逃がさない』と言われている気分になって、また心臓が早鐘を打つ。

「で、でも私、一方的にユキとの約束破ったんだよ? 待ってるって約束して、結局待っていられなかったのに、いまさらユキを選ぶなんて……」

 それは雪哉を裏切ったのと同じ。それを許して欲しいだなんて、虫が良すぎると思うのに。

「約束を破ったのは俺も同じだ。資料室で無理矢理キスして、愛梨を泣かせたから」

 自嘲気味に笑うその表情さえもどこか色っぽくて、雪哉が言う『資料室でのキス』をつい思い出してしまう。無理矢理押さえつけられ、逃げ道を塞がれ、唇を重ねられた。抵抗しても止めてくれなかった。その行為は確かに乱暴だったけれど、雪哉はあの時から本気だった。

 本気で愛梨を、欲していた。

 その時の雪哉の表情を、目の前の雪哉からも見つけてしまい、また顔が熱を持っていることに自分でも気付く。
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