約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 雪哉はいつも戸惑うほど、絶句するほど、心臓が破裂してしまいそうなほどに愛梨を振り回す。思わず身体を離して距離を取るが、開いた距離と同じ分だけ雪哉が近付いてきて、また瞳を覗き込まれてしまった。

「そっ、それに……私、まだ弘翔と別れてから1週間しか経ってないし…!」
「……」
「あとユキはちょっと激しいというか……私、ユキの愛情表現についていける自信なくて……」

 1つ1つちゃんと考えて、真剣に向き合っていこうと思っていた問題を、つい一気にすべて吐き出してしまう。けれど間を埋めるために並べた愛梨の言葉は、1つ1つ綺麗に否定されていく。

「愛梨は泉さんと別れてから日数経ってないのを気にしてるんだな。でも気持ちに整理がつくまで待ってて、考えた結果ヨリ戻すとか言われたら腹立つから……俺は1日も待つつもりはない。愛情表現が過剰なのは……まぁ、諦めて」
「!?」
「それから? 他にも何かある?」

 また強引に。
 雪哉の気持ちを受け入れるために愛梨が越えなければならない課題など、大した問題ではないように言われてしまう。そして本当は情熱的に愛の言葉を囁かれて、嬉しいと思っている愛梨の心を簡単に引っ張り上げてしまう。

「ないなら、ちゃんと俺の事が好きって言って」

 まるでそれ以外の言葉は認めないと言うように、雪哉はじっと愛梨の瞳を見つめてくる。

「知ってるんだ。愛梨が俺をどう思ってるか。……でも愛梨から直接言って欲しい。俺の勘違いじゃないって、ちゃんと教えて欲しい」

 その視線に捕えられ、雪哉を受け入れる事を引き延ばす言い訳が全て無駄になった。乗り越えなければいけない課題をクリアするまで『もう少し待ってもらおう』と思っていた悠長な考えがゆっくりと溶けていく。

 15年も時間があったのに、今更悩んでいる時間は与えないと、雪哉はそっと愛梨を追い詰める。

「……ユキが、好き」

 だからいくら言い訳を並べても、結局はその答えに辿り着いたのだと思う。自分でぽつりと口にした言葉にはっと顔を上げると、まるで雪哉が用意した罠に自分から引っかかったような気分になった。

「俺も愛梨が好きだ。昔から今もずっと、……愛梨だけ」

 気恥ずかしい台詞から逃げようとした愛梨の腕を雪哉の手が掴まえる。そして強く抱き寄せると、晒された耳元にうんと甘さを含んだ低い声を注ぎ込まれる。

「もう愛梨を離さないし、離れないから」

 耳元に吐息を感じて身体を強張らせる。身体の動きを失った代わりに、水を得た水車のように加速した鼓動の音と、雪哉の小さな笑い声が鼓膜まで届く。

 そして肩を抱かれて顔の距離が近付くと、自然と唇が重なった。
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