約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「愛梨? それ、彼氏に対して言う言葉?」

 にっこりと意地悪な笑顔を浮かべた雪哉だが、怒っている様子はない。むしろ嬉しそうだ。

(彼氏……ユキは、彼氏、なんだ……)

 その顔を眺めながらぼんやりと思う。ごく自然に『彼氏』だと主張してくる雪哉には一切の迷いも淀みもない。甘い関係へ色変わりした響きを胸の奥に掴まえ、愛梨は1人でこっそりと照れた。

 思い出すと、また恥ずかしくなる。散々『初めては痛い』と周りに笑って脅され、実際確かに痛かったが、思ったよりは、気持ちよかった。と思う。でもそれ以上に恥ずかしかった……。

「勝手にシャワー借りたけど、何かすごい甘い香りがする」

 照れに照れを上塗りしていると、雪哉が腕を動かして自分の身体の香りを確かめ出した。どうやら一旦自宅に赴き、風邪を引かないように戻ってきてからこの部屋でシャワーを浴びたようだ。よく見ると雪哉の黒髪はまだしっとりと濡れている。

「ほんとだ……ユキから甘い匂いがする」

 雪哉の手を取って香りを確かめると、愛梨の好きな花の香りが広がった。SUI-LENでは洗顔料とボディーソープの取り扱いはあるが、シャンプー類の開発が進んでおらず使用しているのは自社製品じゃない。

 愛梨が気に入って使っているシャンプーはフローラルな甘い香りがするので、男性はあまり好まないのかもしれない。

 ユキはこの香り嫌い?
 鼻先に近付けていた雪哉の手を離しながら、そんな事を訊ねようと顔を上げると、熱を含ませた視線がまたじっと愛梨を見下ろしていた。

「もう1回しようか、愛梨」
「え、え……!?」

 何を、と言うのは聞かなくてもわかる。ベッドに乗り上げて上に跨ってきた雪哉が、愛梨の身体をシーツの上に押し戻してくる。そのまま顔の横に両肘をつき顔を近付けられた。

「いや、無理無理無理」
「無理って言わないの」

 甘美な視線で誘う雪哉の片腕が顔の隣から外され、そのまま下に降りていく。そして裸の肌をゆっくりと撫でられると、布越しに触れた場所が、またほんのりと熱を持つ。

「俺は、何回しても全然足りない」

 まだ15年分の感情を表現しきれていなくて、15年分の愛梨の感覚を取り戻していない。

 そう言って首筋に舌を這わせる雪哉の力には適わず、愛梨はまた甘い声を上げさせられ、夜の長さを味わった。
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