約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 その時は雪哉の事を好きになりたくない一心だった。本当は心が惹かれていることに自分でも気付いていたくせに、認めてしまったら全てが崩壊してしまう気がして、雪哉との『約束』を破棄しようとした。『あの約束、もう無効にした方がいいと思う』と口走った。

「もういいよ。あれは約束じゃなくて、たった今からただの思い出」

 確かに口にした言葉を思い出していると、今日は雪哉の方からその約束を破棄してきた。15年前に交わした甘くて、苦しくて、懐かしい『約束』が、愛梨が何かを口にする前にあっけなく消えて無くなる。

 あまりに簡単に約束を無効にしてきた雪哉を見上げると、そっと笑顔を返してきた。

「その代わり新しい約束をさせて。俺はもう、愛梨のものだよ。それに愛梨も、俺のものだから」
「……!」
「異論ないよねあっても絶対認めないけど」
「息継ぎぐらいしてよ」

 ようやく発する事が出来た言葉は、やけに必死な説得に対する突っ込みだった。それがプロポーズに対する返答ではなかった事に文句を言って来ると思ったが、雪哉は可笑しそうに笑うだけだった。

 ふと自分の上着のポケットに右手を突っ込んだ雪哉が、左手で愛梨の手首を掴まえた。そのまま持ち上げられた手に、雪哉の指先が触れる。

 ポケットから出した小さな金属を、愛梨の左薬指に滑り込ませて。

「わぁっ」

 思わず感嘆の声が漏れる。
 愛梨の左手の薬指に嵌められたのはプラチナのリングにダイヤモンドが1つ。そしてその周りに銀細工の装飾があしらわれた『エンゲージリング』だった。いつの間にサイズを確かめたのか、綺麗な指輪はぴったりと愛梨の指に収まり、きつさもゆるさも感じない。

「……びっくりした」
「うん。そういう顔してる」

 雪哉の顔を見上げて呟くと、彼はにこりと悪役っぽくて優しい笑みを浮かべた。まるで子供の悪戯が成功した時のような、無邪気で屈託なくて、純粋な笑顔。
< 210 / 222 >

この作品をシェア

pagetop