約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「ユキとは新婚旅行に行くでしょ」
「まだかなり先の話だから、それ」

 つまらなさそうに鼻を鳴らした雪哉の言う通りだ。確かに恋人同士から婚約者にはなったが、実際に2人が結婚するのは、SUI-LENでの雪哉の契約が満了になってから。完全に定期の出勤日がゼロになり、単発での依頼に切り替わってからの話だ。

 それに仕事の都合だけではなく、まだ結婚に必要な準備も進んでいない。結婚式どころか、両親の顔合わせすらしていない状態なのだ。
 それについてはあまり必要もないと思うけれど。

「ほらほら、元気出して」

 いつかの楽しみ―――新婚旅行の話をしても機嫌が戻らない雪哉の肩を叩いて慰める。そういう雪哉も、今日の夕方の便でシンガポールに出張に行く予定になっている。お互い不在になるなら別に構わないだろうと思うのに、雪哉はいつまで経っても不機嫌なままだ。

「……わがままで頑固」
「何か言った?」
「ううん。何も」

 彼の父が言っていた言葉を思い出す。
 雪哉は一人っ子で甘やかして育ててしまったから、欲しいものは何としてでも手に入れようとするし、嫌な事は気が済むまで嫌なままなんだ。だから苦労すると思うけど、ゴメンネ! とあまり悪いと思ってなさそうな謝罪を付け足されたのだった。

 でも、まぁ……言われなくても薄々気付いていた気がする。

 呆れた気持ちで溜息をつくと、急に立ち上がった雪哉に腕を引っ張られた。雪哉の家のベッドは、愛梨のベッドよりも少しかたい代わりに、シーツが上質で肌触りが良い。そこに押し倒されて顔を上げると、怒っていたはずの雪哉がいつの間にか楽しそうに笑っている。

「行く前にもう1回しよう。愛梨不足で俺が死んだら、愛梨だって困るだろ」
「ちょっと、ユキ……!」

 そんな事で死ぬわけがない。
 でも死にそうなほどふてくされていたのは確かだ。

「……もう」

 だから愛梨も、諦めて雪哉のキスを受け入れる。ずっと傍にいると誓ったのにそれを破るのなら、雪哉が与えたい罰を受け入れなければならないのだろう。

 それが2人の間で交わされた、
 甘い甘い『約束』だから。


 ――― Fin *

< 213 / 222 >

この作品をシェア

pagetop