約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
エピローグ

 幼稚園の頃、約束を破ってはいけないと先生に教わった。

 小学生の頃、約束を破ると何らかの罰を受ける事を知った。

 中学生の頃、できない約束はしないほうが良いと悟った。


 だから大人になって、絶対に守れる約束しかしないと決めた。
 なのに。


「約束を反故にするのがあまりに早すぎて、言葉もないんだけど」

 自宅のリビングで胡座位になり、膝の上に頬杖をついた雪哉が憮然とした様子で唇を尖らせる。

「愛梨が俺を置いていくとは」
「3泊4日だよ。ユキは出張でしょ」

 完全に拗ねてしまった雪哉を放置して、愛梨はさっさと旅行の荷物と日程の最終確認を進めていく。1か月前にパスポートを取得する時にちゃんと説明したのに、愛梨の顔を眺めるのがよほど楽しかったのか、話の内容までは聞いていなかったらしい。

「まさか友理香に愛梨を取られるとは思わなかった。しかもアイドルのコンサートって……」

 友理香にビジネス韓国語講座を受けてみないかと誘われたが、流石にそれは断った。その講座を受けるという事は、ゆくゆくはSUI-LENの語学面のサポート役を担う可能性があると言う事だ。

 確かにそれは名誉なことだし、やりがいはあるだろうけれど、繁忙期と閑散期の波が激しいマーケティング部に所属していて、これ以上の激務を重ねるのは心身ともに辛い。

 友理香にそう説明すると『じゃあ今すぐ行っちゃおうか! 案内と通訳は私にまかせて!』と言われ、とんとん拍子に韓国への女子3人旅が決定した。

「私はコンサートよりも美容と韓国料理が楽しみなんだけどね」

 一応は言い訳してみるが、雪哉からの返事はない。

 ちゃんと説明したにも関わらず、聞き逃していたらしい雪哉は出発の前日――つまり昨日になってその事実を認識したようだ。昨日からずっとこうして拗ねている。
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