約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 顔を上げると、雪哉の眉が寄っているのを確認できる。どうやら身に覚えがあるようだ。ふと視線が合った雪哉に

「愛梨、知ってたの?」

 と訊ねられるけれど。

「知ってるわけないでしょ! 私、その頃もう大学で家出てるし!」

 無論、知っているわけがない。7年前と言えば、大学4年の頃だ。その頃には2つ年下の弟、響平も家を出ている頃だし、子2人の実質的な子育てから解放されて自由に出歩くようになった母の行動範囲など逐一知る訳もない。

「ちなみにその前はディベート大会だったわね。でもその時はちゃんとお父さん残してあげたでしょ」
「知ってたらそんな行事なんて放棄して、俺も日本に戻って来たかった……」
「そう言うと思ったから黙ってたのよ」

 更に5年前と言えば、16歳の頃だ。以前雪哉から聞いた話だと、英語の読み書きや会話に慣れ、ようやく勉強の面でも成果が見られるようになってきた頃だろう。母としては息子の勤勉さと向上心に水を差したくなかったのかもしれない。

 でもクラス会で会っていたことぐらい、教えてくれればよかったのに!

「どっちかに恋人が出来たら報告しましょうね、って昔から話してたんだけどね~~」
「結局、愛梨にも雪哉くんにも恋人は出来なかったわね~~」
「……」
「……」

 実は恋人いました、って言ってもいいのだろうか。いや、ダメなんだろうな。多分。
 ……分からない。難しすぎるこの母たち。

 口を結んで俯くと、隣にいた雪哉が口元を押さえながら笑いを堪えていた。でも笑い事じゃない。自分の親だけれど、いつもテンションが高すぎて娘の愛梨でさえついて行けないのだから。


 気まずい思いをしながら席に腰を落ち着けると、挨拶もそこそこに台風とハリケーンの会話が再度始まってしまう。

「雪はね、最初の2年ぐらいはずーっと愛梨愛梨って言ってたわよ。もう耳にタコが出来るんじゃないかってぐらい朝から晩まで愛梨ばっかり」
「ユキ……」

 なんなのそれ。
 聞いてるだけでこっちが恥ずかしいんだけど。
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