約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

 思わず足が止まり、そのまま動きも停止してしまう。こちらの様子を見て固まっている愛梨をよく見ると、手にもデスクにも大量のリングファイルが重ねられていた。

(愛梨はマーケティング部なのか…!)

 所属部署と、そこが愛梨の席である事を同時に知る。

 先週の金曜にカフェで話をしてから、愛梨の所属はちゃんと調べておくつもりだった。だが色々考え込んでいるうちに調べ損ねたり、忙しくて調べる暇が無かったりと結局後回しになってしまっていた。

「細木さんは、河上さんとお付き合いされてるんですか?」

 やりとりを見ていた若い男性社員が、後ろからそっと訊ねてきた。『何処をどう見たら、そう感じるんだ?』と不愉快な気分を味わったが、俯瞰的にみると何処をどう見ても友理香とは仲が良さそうだった。雪哉もこれが他人だったら、付き合っているように見えたかもしれない。

「えー、そう見えちゃいまし…」
「違います」

 あはっ、と悪びれもせずに笑う友理香にまで怒りを覚え、最後まで言わせないうちに遮る。

 友理香が本気じゃないことはわかるし、雪哉を陥れようとして言っている訳じゃないこともわかる。けれど今、このタイミングで、そのジョークを披露することはないだろ!

 じろりと友理香を睨むが、友理香は無邪気に笑うだけだ。それどころか、その瞳の中に別の流星が走り抜けていくのを感じ取ってしまう。
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