約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「愛梨のはB定食でしょ?」
「う、うん」

 友理香に突然話題を振られ、挙動不審になりながらもとりあえず頷く。すると友理香の問いかけを聞いた雪哉の声のトーンが、少しだけ上向きになったのが分かった。

「友理香。彼女たちの事、下の名前で呼んでるんだ?」
「うん。2人とも1つ年上だから、雪哉と同じ歳なんだよ」
「そう、じゃあ俺もそうしようかな。2人とも敬語じゃなくていいよ。堅苦しいのは苦手だから」


 来た。

 初対面の玲子と同僚の友理香の性格をダシにして、急に踏み込んで来た。この場でそう宣言しておくことで、これ以降、愛梨と玲子に軽い態度で接する事が不自然ではなくなってしまう。という咄嗟に思いついたにしては良く出来た計略。

 顔を上げると、目が合った雪哉ににこりと微笑まれる。

「またそうやってー。すぐクライアントの女性社員さんと距離詰めようとするー」

 わかりやすい形で攻め込まれ、しかも拒否するための良い理由が見当たらず身体が強張ったが、聞いていた友理香が唇を尖らせて雪哉の行動に文句を言い始めた。だがこの発言には、雪哉の方が焦ったようだった。 

「友理香。誤解を招く言い方は止めて」
「えー」

 不満そうな友理香の声に雪哉の溜息が重なる。ふと、以前部署に雪哉が訪れた時のことを思い出した。

(そう言えば前もそんなこと言ってたなぁ)

 友理香が加わることで賑やかになった打ち合わせの様子を遠巻きに聞いていたところへ、雪哉が用件を告げにやってきた。その時の友理香は『ハグしてくれたら』『雪哉はみんなに優しい』『誰とも付き合わない』と言った言葉を並べて周囲の人を圧倒させていた。

 耳にした時は、胸の奥に小さなチクチクを感じながらも、『可愛かった雪哉もいつのまにか女性を口説くスキルを身に着けたんだなぁ』と小さな驚きを覚えていた。

 まさかその1週間後、もっとビックリするような事を言われるとは露ほども思っていなかったけれど。
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