約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
「河上さん。お食事中に申し訳ありません。少々確認したいことがあるのですが、よろしいですか?」
「はい」
雪哉の静かな怒りからどう切り抜けようかと考えていると、天から助け舟が出された。
総務課のネームプレートを首から下げた男性社員に呼び出されると、雪哉は箸を置いて静かに席を立つ。長い指が箸を扱う所作も綺麗だが、食事の時間を邪魔されても嫌な顔も見せず颯爽と応じる姿もスマートだ。
食堂の端に寄って総務課の男性社員と何かを話している雪哉の姿を、遠くから眺める。
「イケメンは正義ね」
「玲子、話がわかるね」
きらりと瞳を輝かせた玲子と同じく、友理香の目も輝き出す。雪哉の一連の動作に見惚れていたのは愛梨だけではないようで、玲子と友理香が顔を見合わせて頷き合っている。
女子だなぁ、と呑気な感想を抱いていると、友理香が熱のこもった吐息をほうっと零した。
「私ね、雪哉のこと好きなんだ」
「!?」
本日数度目の驚きだったが、愛梨が処理する必要のない発言なので、驚きに徹していられる。玲子も似たような表情を浮かべていたらしく、愛梨と玲子の顔を交互に見た友理香が、ふふふっと笑い出した。
「私たち通訳って、人と人との架け橋になれる素敵なお仕事なんだけど、時と場合によっては誰かと誰かの板挟みになることもあるの」
友理香の言葉に2人で頷く。仕事をしていれば同じ業界の話は嫌でも耳にするが、知らない業界の話を聞く機会はないので、ただそれだけで新鮮な気分だ。
「前にね、すっっっっっごく嫌なセクハラオヤジの通訳を担当したことがあったの。ほんと言葉にできないような酷い発言を訳せって言われて」
すごく、を溜める間がやけに長かったので、きっと本当に嫌な思いをしたのだろう。思い出すだけで忌々しいと言いたげな友理香の表情に、そっと心を痛める。セクシャルハラスメントというのは、受けた側にしかわからない苦しみだ。