約束 ~幼馴染みの甘い執愛~

「人の個人情報を勝手にペラペラ喋っちゃだめよ?」
「はっ! ご、ごめんなさい…!」
「素直でよろしい」

 自分の過ちに気付いてすぐに謝罪した友理香の顔を正面から眺めていた玲子が、にっこりと笑顔を作って満足げに頷く。愛梨も玲子が余計な言葉を口にした訳ではない事にほっとした。

 そしてまだ何か話し込んでいる雪哉の姿と、目の前ではにかむ友理香の顔を見比べて、うん、と頷く。2人が付き合えば、美男美女でお似合いのカップルになりそうだ。

「私は友理香ちゃんの恋、応援してるよ」

 そっと呟くと、隣の玲子に『愛梨?』と声を掛けられた。ちらっと玲子の顔を見ると、玲子が困ったようにこちらを見ている。その玲子に力なく笑顔を返すと、玲子の眉の間には深い溝が出来た。 

「ありがと、愛梨。私ね、仕事も恋も頑張るんだ。雪哉に振り向いてもらいたいの」

 対する友理香は少し元気をもらったように、再び笑顔を綻ばせた。



「スープ冷めたかな?」

 友理香の笑顔がラーメンの器の中に向けられた頃、ようやく雪哉が戻ってきた。事務連絡だったらしいが、スマートフォンの通知が切れてて連絡に気付かず、随分と探されてしまったとのことだ。

「そこの柱の陰に、電子レンジが置いてあるよ。……じゃあ私はこれで」

 スープの温度の心配をしているので、温めなおす方法を教えてあげる。けれど雪哉の返事は待つことなく、愛梨はすっと立ち上がった。

 雪哉が声を掛けるような素振りを見せたが、気付かない振りをした。同じように席を立った玲子と共に2人に会釈して、社員食堂を出る。

「いやー、心臓に悪いランチだったー」

 食堂から随分離れた頃、玲子が無表情のまま間延びした声で言うので、愛梨も同意する。

「本当だよ。…っていうか、玲子何言い出すのかと思って吃驚したんだけど!?」
「やーねぇ。そこまで野暮じゃないわよ」
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