約束 ~幼馴染みの甘い執愛~
フフフと口元を指先で覆う玲子に、『あ、またこれ揶揄われてる』と気付く。玲子が、愛梨に不利になるような発言をするとは思っていない。けれど愛梨を揶揄うのを人生の楽しみの1つにしているらしい玲子には、油断も隙も無い。
くすくすと笑った玲子は、そのままメイクを直すために化粧室へ消えていった。残された愛梨はエレベーターを待ちながら溜息をつく。
(可愛くていい子だなぁ。友理香ちゃん)
ここ最近接して分かったが、友理香の性格は色々と誤解を招きやすい。
友理香は見た目と発言は派手だが、中身は少女のように純真無垢だ。その純粋さや素直な感情表現は実年齢より若い――というより、幼い印象を受ける。
そんなピュアでストレートな感情表現は、時折、他人に向けられる事がある。そして向けられた方が下心や裏腹を持っていると、友理香の言葉は悩ましいトラブルの種になるようだ。
それでも素直で人懐っこい分、可愛げがある。
(……それに比べて私は)
言えなかった。
その想い人、多分私ですって。
友理香のことを想って友理香の恋を応援するつもりなら、ちゃんと申告すればよかった。その上で、その想い人は雪哉に振り向くつもりなどありません、と宣言すればよかった。それが本当の意味で、友理香の恋を応援する事だと気付いていたのに。
口にしたら、雪哉の真剣な告白を無下にしてしまうように感じて、結局は言えなかった。
(私……昔みたいに、素直じゃなくなっちゃったのかも……)
雪哉は職業になるほどの語学力と完璧な容姿を持った素敵な男性に成長したというのに、自分はただ素直さを失い、現実から逃げるだけの大人になってしまったように感じる。
歳月とは、なんてむごいものなのだろう。
と全てを時間の流れの所為してしまう所まで、本当に素直じゃない。