竜王陛下のもふもふお世話係~転生した平凡女子に溺愛フラグが立ちました~
 いや、逃げる気は満々だけど、まだ足が完治していないから逃げることなんてできないのに、用心深いことこの上ない。

 オロオロするミレイナを尻目に、ジェラールは何か書類を捲り始めた。仕事をしているように見えるその姿を見て、どうやら今すぐに殺されることはなさそうだと悟る。

 ミレイナは小さくため息をつくと、ジェラールを見上げた。執務机の上に置かれた書類を読んでいるようで、鋭い視線はまっすぐに一ヶ所を見つめていた。

(何を読んでいるのかしら?)

 後ろ足で立ち上がれば覗けるかもしれないが、それで治りかけた足がまた悪くなったら困るのでミレイナは諦めて大人しくしていた。時折、思い出したようにナツメヤシを摘まんでいた。

(ナツメヤシが好きなのかな?)

 ペンを走らせるカツカツという音が、シンとした部屋に響く。

(温かいな……)

 じっとしているとズボン越しに伝わってくるジェラールの体温が心地いい。
 不覚にも、ミレイナはいつの間にかすやすやと眠っていた。


    ◇ ◇ ◇


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