月の舞踏会
「よく辿り着いたね」

 月に届く透明な場所に

 夜空の暗さと星の明るさ
 月の美しさと少女の健気さ

 輝くばかりの世界に
 仮面の男が立っていた。

「此処は楽しかったかね?」
「うん。楽しかった」

 そうだろう。仮面は笑った。

「愉快に痛快、
 壮大に雄大、
 心地よいダンスは
 触れ合う手と手
 揺さ振り合うステップ
 抱き合う、ぬくもり」

 それは、最後の誘惑。
 甘い夢を見させる子守歌。

「でも、ここはそれだけ」

 然れど、少女は否定した。

「今しか続かない世界
 私は此処に居たくない」



「然り。友よ」



 此処は永遠に続く場所。
 明日を迎えず、昨日を振り返らず、楽しい今を繰り返す。

 つらいことも
 くるしいことも
 いたいこともおいて

 ずっと楽しいだけを続ける
 そんな場所。



「此処に居たくない。
 逃げるばかりで居たくない」

「そう――逃避だ。
 誰もが持つ逃げたい。
 楽を固めた
 時間を忘れた
 永遠を求めた今」

「だから、明日を追い掛けた」



 ――ご明察。



 ペルソナの黒衣が翻る。
 階段を遮った闇が解けると。

 眼前に広がる蒼い夜
 目を焼くほどの光と
 飲み下しそうな偉大さ

 月は目の前にある。

「いいのか? サービスして」
「私は案内人さ。
 迷い子が踊るならステージへ
 旅人が去るなら、出口は此方」



 月への十三階段。

 一歩足を掛けた少女は

「サンキュ」明日へ昇った。

 消える階段。
 溶けていく明日。
 去っていく僅かな歪み。

 永遠は終わらない。
 ペルソナは此処に独り

「御往きなさい友よ!
 君の明日に、光りあれ!」

 俯くばかりの人たちより強く
 嘆くばかりの人たちより疾く
 明日に向かって駆けて往け

 此処は続く箱庭。
 永遠の11時59分。

 新しい迷い人。

 旅立つなら止めはしない。

 踊るのなら、
 蒼い月の祝福の下、
 厭きるまで踊りましょう――

 此処はいつまでも続く舞踏会





End
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