君が君だから俺は君に愛を告げる
その後も何度か話し掛けるが、やっぱりうまくいかない。

なんでだろう?

考えた結果、やっぱり同期のままだからじゃないかという気がして来た。まずは、男として認識してもらわないと、何の進展もない。

よし、ちゃんと言おう! 佐山が好きだって。


そう決意したものの、そんなに簡単に2人きりになれるチャンスもなく、社内コンペ当日を迎えた。

 俺は、昔から人前で話すことには、慣れているので、例えそれが重役連中の前であっても、何ら変わりはない。けれど、佐山は違う。勝気で負けず嫌いではあるが、人前に立つ時には緊張が窺える。現に順番を待つ今も、発表用の資料を落ち着かない様子でめくっている。

 その時、佐山の手がすっと持ち上がった。俺はとっさにその手首を掴んだ。落ち着かなくていらついたこいつは、また髪をかきむしってボサボサにするに違いない。

 俺は、佐山の耳元に顔を寄せて囁く。

「今から発表だろ? いつもみたいに髪をボザボサにして前に立つ気か? 今は、やめておけ」

驚いたように目を見開くその素直な反応が、とても可愛く感じる。だから、俺が守ってやらなきゃって気になる。

俺は、佐山の頭に手を置いた。

「佐山なら大丈夫だから、落ち着いていけ」

そのまますっと撫で下ろし、何事もなかったかのように元の姿勢に戻る。


 佐山は、立ち上がり、発表を始めた。

うん、落ち着いてる。佐山のアイディアは良く練られていて、マーケティングのデータ的にも勝算はありそうだ。

 次は、俺の番だ。立ち上がった俺は、戻ってきた佐山とすれ違う時、

「良かったぞ。がんばったな」

と囁き、肩にポンと手を置いた。その瞬間、佐山の表情が緩み、ほっとしたような柔らかな笑みを浮かべる。俺だけに向けられたその笑顔。それは、胸の奥にポッとあたたかな火を灯した。


 そのまま続いて、俺の発表。もちろん、俺も他の誰にも負けないプランを練ってきたし、勝算はある。けれど、今回、佐山のプレゼンを聞いていて、それだけで終わらない方法を思いついた。

 俺は、自分の発表の最後にこう付け加えた。

「最後に、先程の佐山さんの意見を聞いて、私の案との融合が可能なのではないかと思いました」

俺はその理由を説明する。

「ですから、今回私は、私と佐山さんの意見を同時に進めることを提案したいと思います」

自信はある。どちらの案も他のどの案より話題性、収益率、共に優れている。

 俺は、そう締めくくって、発表を終えた。席に戻る時、俺はポンと佐山の頭に触れ、そのまま何事もなかったかのように、席に着く。

 これで、2人の案が採用されれば、俺たちは同志だ。一緒に創業百周年を盛り上げていくことになる。それは、きっと俺たちの距離を縮めてくれるはず。会社の発展・繁栄と共に。
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