やがて春が来るまでの、僕らの話。



「……柏木くん、…離して」

「……」

「陽菜、悲しむよ……」



聞こえた声に、腕の力が呆気なく緩んでく。

自分の気持ちがグラグラしすぎて、真っ直ぐ立つことさえ見失いそうだ。

そんな自分がかっこ悪すぎて嫌気がさすのに、正しい選択がどの道なのかもわからない。



「そうだ、俺、みんなに話した、お前のおやじのこと」

「え?」

「あいつらならいいと思ったから、話した」



怒るかもしれないって思った。

だってどう考えたって、俺が勝手に言いふらしていいような内容じゃない。

人の心の闇なんて、他人の言葉じゃ伝わりづらいはずだから。

俺なんかの言葉じゃ、あいつらには軽く聞こえたかもしれない。



「そっか…」


だけどハナエは怒らなかった。

小さく息を吐くように言ったそのひと言が、どうしてか俺には「ありがとう」って聞こえた気がして。


本当はみんなにも聞いてほしかったのかなって。

そのタイミングがわかんなかっただけなのかもって、勝手にだけどそう思った。


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