獅子に戯れる兎のように
「俺も久しぶりに東京の友達と会うんです」

「そうですか。お友達と楽しんで下さいね。お先に失礼します」

 トレイを持ち、カウンターに戻す。

「おばちゃん、ご馳走さまでした」

 食堂の入口にある予定表。
 今日の夕食の欄にバツをし、食堂を出た。

 日向は窓から外を眺めながら、ゆっくり珈琲を飲んでいる。

 窓の外に広がる青空と花壇のカラフルな花。日向のスッと伸びた背中と肩越しに見える美しい景色が、一枚の画のように見えた。

 女子寮の二階に上がり部屋に入る。この壁の向こう側で日向が生活している。

 ベッドはどこに置いているのだろう。私、部屋の模様替えしようかな。

 今まで誰が住んでいても気にならなかったのに、壁を隔てた隣室に日向がいると思うと妙にソワソワしてしまう。

 ――『ペットにするならネコ科の年下君もいいかもね。スリスリされたら、いい子、いい子、って抱きしめたくなっちゃう』

 陽乃の言葉が脳裏を過ぎり、ブルブルと首を振る。日向を異性として意識しているのではなく、《《あの》》高校生と名前が同じだから落ち着かないだけ。

 午後から営業部の美空と新宿で待ち合わせをしていた私は、午前中にどうしても立ち寄りたい場所があった。

 昼前に寮を出て、汐留駅から電車に乗り小伝馬町に向かう。

 小伝馬町の駅から、確かそう遠くはなかったはず。路地裏にある小さな居酒屋。

 店はあまり綺麗ではなく、小さな店だったけど、行列の出来る人気店だった。

 四年前の記憶を頼りに、店を探すものの、店には辿り着かない。

「路地を間違えたかな?」

 私の目の前には高層ビルが建ち、ビルの一階には複数の飲食店が入っているものの、あの居酒屋はそこにはなかった。

 一階のパン店に入り、店員にそれとなく尋ねる。
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