獅子に戯れる兎のように
「あの……。以前ここは飲食店がありませんでしたか?」

「飲食店?はい、数年前に飲食店は取り壊しとなり高層ビルになりました。当時あった店の殆どは一階に店舗が入ってますが。どこかお探しですか?」

「あの……。小さな居酒屋さんがあったと思うのですが。行列の出来るお店……。焼き鳥が絶品で……」

「もしかして、居酒屋『日和』かな?あのお店ならないわ。四年前だったかな。閉店したのよ。大きな声で言えないけど、闇金融の取り立てで店をめちゃめちゃにされて、救急車まで来て大変な騒ぎだったのよ」

「救急車ですか?誰か怪我を?」

「女将さんがね。あら……いけない。ついお喋りが過ぎたみたい。他のお客様に迷惑なので、商品を買わないならお引き取り下さい」

 あの居酒屋は、もう閉店したんだ。
 女将が……怪我を?

 あたしは棚からサンドイッチをふたつ取り、レジに出す。

「ご購入ありがとうございます」

「あの、怪我をされた女将さんはその後どうされました?日和には息子さんがいらっしゃいましたよね。その息子さんは今どこに……?」

「そんなこと知らないわよ。事件のあと直ぐに店は閉店したから。女将さんは怪我の後遺症で翌年亡くなったと聞いたわ。六百五十円になります」

財布から小銭を取り出し代金を支払い、商品を受け取る。

「ありがとうございました。もう何も知りませんから。次のお客様どうぞ」

 列から弾き出された私は、サンドイッチの入った袋を持ち店の外に出た。

 あの居酒屋が闇金融の取り立て?しかも救急車を呼ぶ事態まで引き起こしていたなんて。

 あの女将が亡くなり、大将も彼も今は何処にいるのかわからない……。
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