小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
突然のプロポーズ
 ここ数日、私はひたすら静かに過ごしていた。

 先日のケンカ以来、ローレンも私に話しかけに来なくなった。
 前はずっとこうだったのに、いざひとりに戻ると寂しくてたまらなくて、空元気すら出せずにいる。

 窓から観察していると、ローレンは果敢にレオに話しかけには行っているようなので、任せておけばいいのだろう。小説の神様に愛されているのはローレンだもの。どんな奇跡の力も起こせるはずだ。
 私のような悪役令嬢立ち位置の人間は、動けば動くほど、ヒーローやヒロインを不幸にしてしまうに違いない。
 分かっているのに、なんだか胸が痛い。レオを追いかけるローレンの姿を、見たくない。

 どうして私は、リンネに生まれ変わってしまったんだろう。
 どうして助けられないのに、彼の苦悩を近くで見る立場になってしまったんだろう。
 なにもできないなら、いっそなにも知りたくなかった。ただ自分の感情にだけ素直でいられるモブになったほうが、ずっとましじゃない。

 ローレンを応援しなきゃいけないのに、一緒にいるふたりを見るたびにモヤモヤした気分になって、自己嫌悪に陥る。
 地の底に沈みこみそうなほど重いがため息を着いて、頭を抱える。

 今のところ、婚約破棄の通達は来ていない。知られれば親に怒られるのが目に見えているので、助かってはいるけれど。

 あんなに喜んでいたお父様だもの。勘当されちゃうかもしれないなぁ。そうしたらこの学園にも通えなくなっちゃう。せめて、レオの呪いが解けるところは見たいから、彼の卒業まではなんとかして居座れるといいのだけど。

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