小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました
「そうだ。……悪魔を召喚しちゃったんじゃなかったの? レオは大丈夫なの?」

「召喚された悪魔が最初に標的にしたのがおまえだ。そのとき、吹き出した血を吸って、時戻りの魔法は発動した。おまえが、まさにその身をもって、俺を助けてくれたんだ」

 レオは私の手を取り、甲を優しく撫でている。レオを助けられたことはうれしいけれど、胸を切られてなんで私は生きているわけ? ゾンビ? 今の私、ゾンビなの?

 そう言ったら、レオは「ゾンビとは何だ?」と不可解な顔をして、体をすっとずらした。
 後ろに、赤毛の令嬢が立っている。

「おまえを助けてくれたのはローレン嬢だ」

「ローレンが?」

 ローレンはゆっくりと体を屈め、少しバツの悪い表情をしつつ、舌を出してへらりと笑って見せた。

「私、リンネに対して癒しの力を発現させちゃったみたい」

「癒しの力?」

「巫女姫に継承される力のひとつらしいよ。小説で私が使った力もこれだったみたい」

「……そんなのあるんだ……」

 本来、レオが怪我をしたときに発現するはずだったローレンの能力は、私を救うために開花したらしい。
 とはいえ、傷をすべて消すほど強力なものではなく、血を止め、傷口を塞ぐ程度の回復量しかなかったらしい。命は救うことはできたが、傷自体は残っているのだという。

「じゃあ、ローレンが助けてくれたんだね。ありがとう」

 そう言ったら、ローレンが感極まったように抱き着いてきた。
 もう仲直りでいいのかな、なんて私もホッとして、ちょっと胸が痛かったのだけど、こらえて抱きしめ返す。

「今度こそ、早死になんてごめんだから。私もリンネも、おばあちゃんになるまで長生きするんだよ。琉菜と凛音のためにも」

 そうだね。早くして死んだ前世の私達。まだまだやりたいことだってあったもんね。

「うん!」

「ずっと友達なんだからね、リンネ!」

 なんだかよくわからないけれど、友情は復活でいいらしい。良かった。ローレンと喧嘩をしているのは悲しいもん。

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