世界でただ一人のヒーラーは生殺与奪を握ってます。
 エルザにしてみればとても簡単な依頼だと思っていた。

国境近くに出没する魔物の討伐。四足歩行で牙が鋭い。犬を少し大きくした魔物の討伐だった。しかし、現地に到着したエルザが見たものはおびただしい数の魔物だった。

魔物の集団がエルザ達パーティーを取り囲む。魔物にしては知能がたかいのか、決して一匹では襲ってこない。一匹切り伏せても次の牙が次々と襲いくる。
「きりがない」
エルザは焦りと苛立ちを覚えて叫んだ。一匹の戦闘力はたいしたことはない。犬と大差ない戦闘力だ。しかし、体力も魔力も無限ではない。
エルザ達の疲労はピークに達しようとしている。次第にエルザたちは圧されはじめる。
エルザの隣りで叫び声が聞こえた。それは仲間の断末魔だった。仲間の頭を魔物が食いちぎっている。仲間は二人になり、一人なる。
最後に残った仲間はこの場から逃げようとして魔物に足をとられた。
「助けて・・・エルザ・・・」エルザに助けを求める目は恐怖の色にとりつかれている。
エルザは助けようと振り返るも、次の瞬間に脇腹の痛みを感じた。魔物がエルザを抜き際に牙をたてたのだった。ざっくりと傷口からしたたり落ちる血液が重症だと訴えかける。
「・・・つっ」
痛みを堪えるエルザ。牙をたてた魔物がまた同じよう突進してくる。二度目はないとそれを切り伏せた。仲間の足はちぎれてしまっていて、本体である体はズルズルと魔物の群れの中に引き込まれていった。
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