溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
梨乃との結婚を心底望んでいると疑いようもない。

「長い間我慢したご褒美をくれ」

侑斗の整った顔に見とれてぼんやりしている梨乃に軽くキスを落とすと、侑斗はすくっと起き上がり梨乃を横抱きにして立ち上がった。

「ベッドまで、つかまってろ」

愛しげな声でそう言うと、侑斗はつかつかと寝室に向かった。
途中、梨乃は壁に掛かっている大きな絵を目にした。
白石家の現当主が侑斗の誕生日に贈ったという、世界的に名前が知られた画家の作品だ。
落ち着いた色が重なり合う水平線の絵はたしかに素晴らしいが、価格を想像すると安易に近寄れず、やはり侑斗とは生きる世界が違うと感じてしまう。
自分が侑斗にふさわしいとも思えない。
それでも今は侑斗のそばにいたい。
立場の違いへの不安よりも、好きだという気持ちのほうが何倍も強い。
梨乃は侑斗への思いを確信し、温もりをたしかめるように侑斗にしがみついた。

「どうした? すぐに抱きしめてやるから我慢しろ。……我慢できないのは俺のほうだな」

寝室のドアを開きくっくと肩を揺らして笑う侑斗の声にドキドキしながら、梨乃は目を閉じた。
その夜、梨乃は何度も侑斗に抱かれ、好きだと何度も言われ、そして同じ言葉を求められた。



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