溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
男子高校生の驚くべき食事の量にいちいち悩んでいるわけにはいかない。
たとえエンゲル係数が右肩上がりでも、志望校を目指して頑張る翔矢の健康を考えれば食費を削るのはもってのほか。

「まあ、それも仕方がないか」
「仕方がないってなにが?」
「え、あ、なんでもない。仕事のこと」

身支度を整えてテーブルに着いた翔矢に、梨乃は言葉を濁した。
梨乃の給料と両親からの仕送りで生活している中、食費や翔矢の学費、塾の費用を捻出するのは楽ではない。
けれど、大学受験を控えた翔矢に余計な気遣いはさせられず、梨乃は笑顔を向けた。

「がっつり食べて今日も頑張ってね」
「うまそうだな。母さんと違って姉さんは料理上手だから、弁当も楽しみなんだ」
「母さんは音楽一筋でほかはなにもできないから。まあ、だからこそ、私はこんなしっかり者に育ったんだけど」

ピアノ講師をしている母親は音楽以外に興味はなく、家事はすべて苦手。
それを見守る父の大らかさもあったのか、母親が家事の上達を目指す機会はなかった。
そのため梨乃は子どものころから料理や掃除、いっさいの家事を引き受けていた。
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