溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
たとえ生まれたときからそれを決められていたとしても、梨乃はホテルのために力を尽くす侑斗の姿を何度も見ている。
その姿は遠目から見ても頼りがいがあり、ホテルの未来を託すにふさわしい存在感があった。

「実は侑斗さんがホテル経営を仕切ってるという話は何度も耳にしたことがあるし、侑斗さん白石ホテルが大好きですよね。忙しくても毎日楽しそうだし」
 
梨乃は角を曲がる侑斗から遅れないよう、歩みを速めた。ふたりの影が重なり歩道に長く伸びている。

「仕切ってるのは社長の諒太だ。俺は諒太が望む方向に地ならしをしてるだけ。諒太の意図を汲み取って先手を打つのが仕事だ。だからといって社長になりたいわけじゃないから誤解するなよ」

面白がるようにそう言ったかと思うと、突然侑斗は真面目な表情で梨乃の手を取った。

「悪い。早く気づけばよかったな。夜道が怖いんだろ?」
「え、あ……」
 
梨乃は口ごもりうつむいた。
侑斗の大きな手に包まれた自分の手が目に入り、体の中から力が抜けるのを感じた。

「周りを気にして落ち着かないし、俺の側から離れようとしない。またひったくりにでも遭うのが怖くて落ち着かないんだろ?」
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