強引な無気力男子と女王子
 連音さんは私とバッチリ目があったはずなのに、クルッと背中を向けて帰っていく。
 しかも鼻歌交じりに、なんだか楽しそうに。
 裏切ったな薄情者!
 「何で答えないんだ‥‥‥?」
 ひぃぃ、香くんの頭に角が生えている‥‥‥!!
 「え、えっと‥‥‥龍羽に頼まれて、瀬戸悠理を起こしに行って‥‥‥。で、何故か抱き枕にされて‥‥‥」
 そうだ、私は何も悪くない。
 悪いのは全て瀬戸悠理なんだ。
 そこまで聞くと香くんは溜め息をついて、静かに近づいて来る。
 殴られる‥‥‥!?
 身構えると、香くんは私の横の瀬戸悠理の首ねっこを掴んで、また、寝室に消えていった。
 ‥‥‥怖かったあぁぁぁあ!
 寿命が何年か縮んだよ。
 安堵したのも束の間。
 隣の部屋から怒号が聞こえてきた。
 ‥‥‥ちょっと瀬戸悠理に同情する。

 笑い転げる連音さんが迎えにきて、私は初めてスタジオに足を踏み入れた。
 「これが今日のセットね」
 「え‥‥‥‥‥‥」
 私はそれを見て絶句した。
 「どうしたの?」
 「なんでベッド‥‥‥」
 ベッドがセットってこと‥‥‥!?
 え、どういうこと!?
 いきなり逃げたいんだが。
 「ベッドは僕の実家から今日の撮影のために運んだんだ」
 全く望んでいない類の答えが返ってきた。
 「はいはい撮影始めるよ〜」
 その一言で私の初めての仕事が始まった。
 

 「う〜ん‥‥‥」
 「すみません‥‥‥」
 いつもなんかふざけたような態度の連音さんだけど。
 撮影が始まった途端に雰囲気が変わって、真剣な表情になった。
 その顔で、いかに連音さんがこの仕事が好きか、そして誇りを持っているか伝わってくる。
 そんな連音さんに申し訳なくなるくらい、私はひとつもokを出せていなかった。
 「表情がちょっと硬いかも。初めてで緊張してると思うけど、リラックスリラックス」
 わかってるんだけどね?
 やっぱり緊張で顔がこわばる。
 「真紘〜!頑張れ〜!」
 連音さんの後ろで龍羽が小さな声で応援している。
 うう、本当に申し訳ない‥‥‥。
 微妙なそんな空気が漂いかけたその時。
 ガチャ。
 その短い音が響いた。
 続いて聞こえてきた声は。
 「あれ、真紘髪くくってる」
 そんな呑気なことを言ってる。
 「今撮影中?」
 「悠理、そうに決まってるだろ」
 龍羽は呆れながら瀬戸悠理に言葉を返す。
 
< 24 / 107 >

この作品をシェア

pagetop