あなただけのチアになりたくて……

「中村先輩」
「うん……」

 階段に座り込んでしまったわたしをみんなが囲んでくれた。

「頑張ったじゃん。もう声出ないでしょ?」

 本当にそうだ。うまく話が出来ないほど、わたしの声はもう潰れてしまっていた。

 最後の打球、飛距離は充分だった。

 でも勝負の神さまはわたしたちに微笑んではくれなかった。
 フェンスに駆け上ったセンターのグラブの中に白球は収まってしまった。


 甲子園での成績は、1打席・センターへの外野フライ。
 それと同時に試合終了。


 亮平が1、2塁間で座り込んでしまったのと、わたしが崩れ落ちたのは同時だった。



「中村さん、先に出ていて。片づけは他の子たちでやっておくから。急いでここに行ってらっしゃい」

 顧問の先生が、わたしに1枚のメモを渡してくれた。
 選手専用の出入口が書いてある。

「でも片付けが……」

「そんなの誰でも出来る。中村さんは中村さんにしか出来ないことをやってらっしゃい。もう次はないんだから……」

 先生は黙って頷いてくれた。

「失礼します!」

 そこに走ると、ちょうど野球部の選手たちが出て来るところだった。

「遠藤、ほら。お前専属の応援団(チアガール)だぞ」

 気がついた野球部のチームメイトが、亮平をわたしのところに連れてきてくれた。

「光代……ごめんな……」
「ううん。おつかれさま……」

 うなだれた亮平と声が枯れて出ないわたし。
 わたしたちが交わせた言葉はこれだけ。でも、これで十分だったよ。

 わたしは最高の夏、最高の夢を見せてもらえたんだもの。

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