きっともう恋じゃない。
あんまり怒ってなさそう?
薫がフォローを入れてくれた?
昨日のは夢だった?
チキンで機嫌が直った?
スパイシーチキンが思いのほか辛かったのか、べっと舌を出す眞央を横目にちらちらと見ていると、ばっちりと目が合う。
柔らかいけど、ちょっとだけつり上がった目。
決して物で釣ろうとしたわけではないことを伝えたくて、わたしもチキンを頬張る。
舌に広がるピリッとした辛味のせいで口のなかは熱いと痛いでいっぱいになる。
グラスに口をつけてちょうど滑ってきた氷を舌の上に乗っける。
「百面相」
「なっ、眞央だって顔真っ赤だよ」
「だってなあ、これめちゃくちゃ辛い。よくこんなん売ろうと思うよな。激辛って書いてなかった?」
「ぴりっとスパイシー、程よい辛さが決め手、だったかな」
「そりゃあ、騙されるわ」
真っ赤な顔をしているのに、ぺろっと平らげてしまうから演技なのか本気なのか疑わしい。
薫の分には手を付けずにお菓子の袋をあさり、眞央の好みかなと思って買ったスナック菓子を選ぶ。
そんなことが嬉しくて、たぶん、こんなに嬉しくなるのは眞央だけだって実感して。
「なんで、涙目」
「辛いからっ……」
「え、ギャグ?」
「違うから」
「今のはボケたろ」
ずっとこんな風がいい。
こんな風でいい。
眞央が一枚上手でいいから。
わたしもわたしのことは自分で解決できるようになって、眞央の隣にいるときに情けなくならない自分になるから。
だから、ずっとこのままでいたい。
チキンを包みに戻して、腫れたくちびるを動かす。