雨あがりの匂い【中学生日記①】
 彼がいたことに気付かず、独り言をつぶやき歩いていた気恥ずかしさ。好きな異性がいきなり現れた驚き。その両方が、奈緒の顔を真っ赤に染めた。

 さいわい日に日に濃さを増した緑陰に隠れ、その頬の紅潮は、彼にバレてはいなかったが。

「青春してる、っていう匂い……だよな」
 彼が言った。

「うん!」

 風が言葉を運んでくれた。
 奈緒が嬉しそうに微笑んだとき、彼と視線がピタリと合った。それはほんの一瞬。

 奈緒はそのとき、これから始まる日々のストーリーを見たような気がした。

 間もなく訪れる梅雨の季節。今日の天気は、その空模様を連想させていた。
 けれども奈緒の心には、青く清々しい、春の空が広がっている。その空の下で、そっとつぶやいてみた。

「ベタな青春ドラマのヒロインみたい……」

 甘くてちょっと酸っぱい、雨上がりの匂い。奈緒はひとり、それを味わっていた。


ー終ー
< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

夜中にコッソリ【日記みたいな】
nekojy/著

総文字数/1,647

実用・エッセイ(その他)6ページ

表紙を見る
シンクロニシティ【中学生日記】
nekojy/著

総文字数/2,987

青春・友情7ページ

表紙を見る
訳ありの檸檬【中学生日記】
nekojy/著

総文字数/3,744

青春・友情8ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop