仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 どうしようもないとわかりながら、罪悪感に似たものがもやもやと渦巻いていた。

「あの、本当にごめんなさい……」

 それしか言えなくて謝罪を口にする。メールを確認したらしい気配を電話の向こうから感じた。

『別にいい。紗枝さんの力になれてうれしいよ』

「和孝さん……」

『一時間後にもう一回連絡する』

「ありがとうございま――」

『大丈夫だから、そんな泣きそうな声を出さないで』

(え……)

 言われて自分の頬に手を当ててみる。涙は流れていない。私自身、泣いている自覚はなかった。

 でも、言われてみれば喉がぎゅっと締まっている。それこそ、泣く寸前のように。

『じゃあ、またあとで』

「あ……」

 私がなにか言う前に和孝さんは電話を切った。

 しばらく、音のしなくなったそれを見つめてしまう。
< 215 / 394 >

この作品をシェア

pagetop