仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 靴を履くときに手を貸す――というだけのなにげない行為が特別なものに思えたのは、きっとそういうことなのだろう。

(この人は普通にするタイプの人なんだ)

 感動を覚えつつ、もしかしたらという考えに至る。

(いつもの私じゃなかったら、こういう扱いをしてもらえるんだな)

 かつての恋人たちが私を雑に扱ったのは、そういう扱いをしてもいい女だと思っていたからだ。

 これがたとえば、上品でおとなしいお嬢様だったらどうだろう。きっと今目の前にいる彼のように親切な対応をしたに違いない。普段の自分のままこの人に接しなくてよかったと心から安堵する。

 靴を履き直したあと、名残惜しかったけれど手を離した。

「ありがとうございます。助かりました」

「帰りも気を付けてくださいね」

「はい」
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