仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
(なにしてるんだろう、私)

「ご、めんなさい。なんでもないの」

 すぐに和孝さんから離れて、名残惜しいぬくもりを忘れようとする。

(困らせてどうするの。もっとほかにやり方があったでしょ……)

「……おやすみなさい」

 そそくさと背を向け、毛布をかぶる。

 和孝さんの方を見ることはもうできない。

(自然に抱き締めたいと思ってもらえるような妻にならないとだめだよ、やっぱり)

 悲しいことに、腕にはまだ和孝さんの感触があった。

(私も抱き締められたい。……好きな人に)

 望んでも叶わない。これが今の私と夫との距離感。

 うまくいっているように見えるだろうけれど、そこに男女の恋愛はない。

(多くは望まないから、せめて普通の夫婦になりたい)

 柔らかなシーツを握り締めて目を閉じる。
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