月に魔法をかけられて
「武田絵奈って、副社長狙いですかね……?」

私の姿を見つけてやってきたあゆみちゃんが、副社長と武田絵奈に視線を向けながら、耳元でこそっと囁いた。

「わかんないけど、見てるとそんな感じだよね……」

私はフッと口端をあげながらあゆみちゃんに視線を移す。

「やっぱり副社長イケメンだもんなー。美月先輩は副社長とずっと一緒にいて、好きになることないんですか?」

「えっ?」

あゆみちゃんの突拍子もない質問に、思わず声が大きくなってしまい、慌てて両手で口元を押さえる。

「もう、美月先輩、びっくりしすぎですよー。あれだけのイケメンを毎日見てたら、やっぱり好きになるのかなーって思っただけです」

「そ、そんなこと思ったことないよー。だ、だって副社長だよー。好きになるとかありえないでしょ……」

「そうですかー。あれだけのイケメンですよー」

私は副社長に視線を向けた。

確かにかっこいいし、イケメンだけどね……。
最初に比べたら、彩矢と聡さんのこともあって、
随分と苦手意識はなくなってきたけれど。

やっぱり副社長だもん。そんな風にひとりの男性としてなんて見たことないよ。

「確かにね、イケメンだとは思うけど……。それより毎日スケジュールがいっぱいで仕事が大変そうだから、そっちの方が気になるかな。疲れてないのかなとか、体調大丈夫なのかな……とか、そういうことは思ったりするけど……」

「やっぱり美月先輩らしいなー。普通の人だったら、絶対好きになっちゃいますよー。だって、イケメンの上に、副社長ですよー。私、あんなイケメンな副社長と毎日一緒に仕事をしてたら、絶対好きになっちゃうなー」

あゆみちゃんはうっとりとしながら、副社長に熱っぽい視線を送っていた。
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