月に魔法をかけられて
「あっ、瞳子さん……」

私は瞳子さんが戻る前にどうしても気になっていたことを尋ねてみた。

「あの……やっぱり副社長って怒ってらっしゃるんじゃないですか?」

「副社長? 全然怒ってないわよ。どうして?」

「さっき副社長の隣にいらっしゃいましたよね? 怒られてたんじゃないですか? 顔が怖そうでしたし……」

「さっき? あっ、あれね……。ううん。全然怒ってないわよ。多分、美月ちゃんに見惚れてたんじゃない?」

瞳子さんはなんだか嬉しそうな笑顔を浮かべて私を見つめる。

いやいや瞳子さん、あんな無表情な顔で睨んでいたのに、見惚れるなんてありえませんから!

瞳子さんは「そんなの気にしなくて大丈夫よ。あと2回リハするからね」と言いながらカメラマンの元へ行き、「あと2回リハをお願いします」と全員に聞こえるように呼びかけた。

それから再びリハが行われ、やっと解放された私は急いでメイク室に駆け込み、すぐに衣装を脱いで自分の服に着替えた。スタジオに戻ってくると、ちょうどモデルの武田絵奈が到着したところだった。

さすが芸能人。
ダイヤのようにキラキラとした光が周りから見えてきそうなくらい華やかで、オーラが半端ない。
すぐに副社長の近くに行き、可愛らしい笑顔で挨拶をしている。

副社長の腕を掴んだり、色っぽい瞳で見つめながら顔を傾けて顔を覗きこんだりして、楽しそうに会話をしている。
副社長も武田絵奈に笑顔を向けて会話を楽しんでいるようだ。

あんな楽しそうな顔をして会話してるなんて……。
私には睨むような無表情な視線を向けてたくせに……。

あまりにも自分との態度の違いに少しだけ腹が立ってきた。

相手はモデルだし、綺麗だし、可愛いし、スタイルいいし、色っぽいし、笑顔を向けたくなるのはわかるけど、そこまで私と態度が違うって少しひどくない?
武田絵奈だって副社長のことを気に入ってるのが丸わかりだし。
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