月に魔法をかけられて
レセプションパーティーは、顧客や取引先などの関係者を招待して交流を図るパーティーだ。

招待する側もされる側も、会社役員の他、営業部や流通部、マーケティング部といった営業に関わる人たちが参加する。

なので、秘書の私は参加する必要はない。

だけど先日瞳子さんより、元々マーケにいてパーティーの内容は把握しているし、パーティーに来られる招待客のことも分かっているから手伝ってもらえないかと連絡があったのだ。

「ああ、それは塩野部長から聞いてる。じゃあ、17時にタクシーで出かけるから、山内さんも俺と一緒に乗っていけばいい。17時には出れるよう準備しておいて」

「は、はい。わかりました」

私はそう返事をして頭を下げると、自分の席へと戻った。


えっー。副社長と一緒にホテルに向かうの?
私は瞳子さんたちと一緒に行こうと思っていたのに。
もうー、緊張するじゃん。


憂鬱な顔をしながらうなだれていると、会社用の携帯がブルブルと震え始めた。

画面には【瞳子さん】と表示されている。

私は携帯を手に取ると、通話ボタンをスライドした。

「もしもし、美月ちゃん? 今日のパーティーの打ち合わせをしようと思うの。今から12階の会議室まで来れる?」

「はい。副社長に了解を取れば大丈夫だと思います」

「じゃあ、会議室まで来てくれる? いつものようにパーティー用の服にも着替えるよね?」

「はい。そのつもりです。一応着替えを持ってきました」

「じゃあ、それも持ってきて。こっちで一緒に着替えましょ」

「わかりました。でも瞳子さん、私17時には副社長と一緒にここからホテルに行かないといけないんです」

「えっ、壮……、そうなの? 副社長と一緒に行くの?」

瞳子さんは一瞬言葉に詰まったあと、驚いたように聞き返した。

「はい。そのように指示がありました」

「そうなんだー。副社長と一緒に行くのねー。
ふふふっ。わかったわ。それまでには打ち合わせも準備も終わるから大丈夫よ。じゃあ、会議室で待ってるからね」

瞳子さんはそう言って楽しそうに笑ったあと、電話を切った。
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