月に魔法をかけられて
*****

「ちょっと場違いだったかな……」

「なんだか緊張するね……」

ホテルの最上階にあるその場所は、心地よいジャズが流れ、きらきらと煌めく夜景が一望でき、まさに優雅でエレガントな空間といったバーで、想像していた以上の大人の雰囲気に圧倒されてしまった。

フロアスタッフに案内され、緊張しながらカウンター席に座った私たちは、メニューの中から好きなカクテルを注文した。バーテンダーがシャカシャカとリズムよくシェイカーを振り始め、彩矢がオーダーしたマティーニと、私がオーダーしたライチオレンジのカクテルが目の前に置かれた。

「このライチオレンジ、フルーティーで美味しい!」

「私、久しぶりにマティーニ飲んだけど、やっぱりホテルのカクテルだからかな。一段と美味しく感じちゃう」

彩矢がグラスを手に持ち、光にかざしてカクテルの色を見つめながら、再びグラスを口に近づける。

「彩矢って相変わらずお酒が強いよね。私なんてジュースみたいなカクテルしか飲めないのに」

私は彩矢を羨ましく感じつつ、一緒に注文したチョコレートを手に取って口に入れた。
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