月に魔法をかけられて
「美月みたいにね、お酒が弱い方が女性はモテるんだよ。私みたいにこんな外見でお酒も強いと、ほんとにチャラい人しか寄ってこないんだから……」

ポジティブな彩矢には珍しく、はぁーと大きなため息を吐いている。

「なんかね、大学生の頃は漠然と彼氏と結婚するのかなって思ってたけど、お互い就職して忙しくなって別れたでしょ。別れた当初はまだ若いし、出会いなんてたくさんあるし、彼氏なんかすぐできるって思ってたんだよね。だけど出会いなんてほとんどないし、気づいたらもう27歳だし……」

彩矢がマティーニのグラスの中にあるピックに刺されたオリーブを口に入れる。

「そうだよね。社会人になってからいろんな人には出会うけど、仕事の繫がりの人が多いだけで、付き合うとかってまた別の話だもんね」

「社内だと別れた時がつらいしさ。取引先の人でいいなって思っても簡単に声なんてかけれないしね。学生の頃はコンパなんて頻繁にあったのに、社会人になってからの飲み会なんて会社の行事がほとんどだもんね。そうなると、私ってこのままずっとひとりなのかなって思っちゃうときがあるんだよね」

そう言って遠くを見つめる彩矢の横顔は少し寂しそうだった。
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