月に魔法をかけられて
すると、急に彩矢が私の後ろを見て驚いたように軽く会釈をした。反射的に私も振り返ると、背の高いイケメンの男性がこっちに向かって歩いてきていた。

「石川さん。びっくりしました……。こんなところで……」

驚いた顔をした彩矢がそのまま椅子から立ち上がる。

「田辺さんですよね? 野村商事の……。僕もびっくりしました。こんなところでお会いするとは……」

その男性はとても素敵な笑みを浮かべて、彩矢に挨拶をした。

「私もです。ほんとびっくりしました……」

「お友達とご一緒ですか?」

その男性が私の方に視線を移しながら、彩矢に話しかける。

「そうなんです。今日は美月……、いえ友達の誕生日で……。石川さんもご友人とご一緒ですか?」

「はい。そうなんですけど、まだ連れが来てないんです。遅れているみたいで……」

するとフロアスタッフが「ご一緒に奥のテーブルに移られますか?」と声をかけてきた。

男性が「あ、いや……」と言いながら返答に困っている。

「もしよかったらご友人が来られるまで一緒にいかがですか?」

彩矢が笑顔で男性に声をかけ、私たちはその男性とテーブル席へと移動することになった。
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