月に魔法をかけられて
「いや、パーティーでJGデザインの後藤とか、モデルのHAYATOとかと楽しそうに話してただろ? マーケの田村だっけ? あいつとも仲良く話してたじゃん? あの中で誰か好きなのかなと思って……」

バツが悪そうな顔をしながらも私を真っ直ぐに見つめてくる。

「JGの後藤とはごはん行く約束してたじゃん? だからその……付き合うのかなとか思ったり……」

副社長がマグカップを手に取り、まだ湯気が立っているコーヒーをゴクっと口に入れた。

「わっ、あ、熱っ……」

「だ、大丈夫ですか?」

すぐにティッシュの箱を手に取り、副社長に渡す。

「わ、悪い。コーヒーが熱いの忘れてた……」

慌てながらティッシュを受け取る副社長の子供っぽい姿に、私は思わずクスッと笑ってしまった。

「好きな人はいません……。それに……多分ずっと誰とも付き合うことはないと思います……」

「ずっと誰ともない? どうして?」

「昔、ちょっと嫌なことがあって……。それ以来、男性の近くに行くのが怖いというか……。距離を縮められるとすごく怖いんです……」

話しながら声が徐々に小さくなっていく。

「何があったか聞いてもいい? あっ、言いたくなかったら言わなくていいよ」

私の全てを包んでしまうような柔らかい顔を向けて瞳を揺らす。私は頷いて座り直すと、瞳子さんに話したことを副社長に話し始めた。

副社長は話を聞いている間、ひとことも話すことなく、真剣に私の話に耳を傾けた。
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