月に魔法をかけられて
恐怖、再び……
月曜日になり会社が始まると、副社長は通常と変わらないいつも通りの副社長に戻っていた。

あれだけ『美月、美月』と呼び捨てにしていたのが『山内さん』に戻り、土曜日に一緒にごはんを食べたことが実は夢だったのではないかと思ったりもしたけれど、時折見せてくれる優しい表情が、あの時間は夢ではなく本当の出来事だったのだと思わせてくれた。

副社長と約束した通り、次の週の土曜日は鍋料理ということで、私はいろんな鍋料理をネットで検索しながら、白菜と豚肉のミルフィーユ鍋を作ることにした。

真っ赤ないちごがぎっしりと埋め尽くされたまん丸いいちごのタルトをお土産に持ってきてくれた副社長は、その鍋を「旨い。旨すぎる」と言いながら最後の雑炊まで全部食べてくれて、『来週はおでんが食べたい』とリクエストをして帰っていった。

そんな中、12月10日になり、新色コスメのCMがテレビで流れ始めると、武田絵奈の効果もあってか、潤いある艶感と品のある発色が多くの女性に受け入れられ、パールシリーズのアイシャドウとリップが瞬く間に物凄い勢いで売れ始めた。

私はほっとしながら、その売れ行きを静かに見守っていた。

CMが放映され始めて一週間が経ったころ、朝、いつものように副社長の経費精算をしていると、机に置いていた会社用の携帯がブルブルと震え始めた。

画面には【あゆみちゃん】と表示されている。

(んっ? あゆみちゃん? 珍しいな)

そう思いながら、私は携帯を手に取り、通話ボタンをスライドした。
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