月に魔法をかけられて
「美月、いいか。外にはいろんな男がいるからな。短いスカートを履いていれば、覗こうとするヤツもいる。それに身体のラインが出るような服を着ていると、平気で触ろうとするヤツもいる。美月にまた何かあったらどうするんだ? 今の時代、どういうヤツがいるか分からないんだから、そんな服は家の中だけにしろ。外には着て出るなよ。まあどうしても着たいのなら、俺と一緒にいるときだけならいいけどな。わかった?」

「はい……」

「分かったのならよろしい」

副社長はニコッと笑顔を向けて、手を滑らすように私の頭を撫でた。

「副社長、お父さんみたい」

その顔を見てふふっと笑みが零れる。

「美月の中では、俺は子供とかお父さんなんだな。彼氏という選択はないのか……」

ぼそっと小さな声で呟きながら、寂しそうに瞳を揺らす。

「じゃあ、来週の土曜日な。鍋楽しみにしてるから。今日はゆっくり寝ろよ」

副社長はそう言って玄関のドアを開けると、手を振りながらエレベーターに乗って下に降りて行った。

ガチャリとドアが閉まり、しーんと静寂な空気に包まれる。

同時に何とも言えない空虚感が襲ってきた。

寂しさをこれ以上感じないように、思わず両手で胸元のニットをギュッと掴む。

副社長が帰ったあとの部屋は、魔法が解けたように色のない部屋に見えていた。
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